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う男は大きな溜息を一つ。鋸ぎこぎこ引き出したとさ。なんだか放っておいたら間に合いそうにもないしとそんな理由で引き受ける辺り人が良い。放って帰っても誰も文句なんか言えやしないのに。
「あーくそ、絶対あいつら今度文句言ってやる」
悪態の一つを付くぐらいなのだこの男。それできっと文句なんて言わないのさ。まあしかし楽しそうではない。彼を突き動かすのはきっと義務感じみた何かだろうよ。対して女の方は不思議と楽しげ。なんなら鼻歌交じりの様子でどこからか持ってきた怪談話の挿絵を見て単なる板をおどろおどろしく彩っていく。
「お前さ、帰りたかったら帰っていいからな?」
そんな問いにも彼女は笑って答える。
「大丈夫、楽しいから」
何が楽しいんだか、男は妙なものを見たと言わんばかり顔を顰め木の角にやすりを掛けていた。
一週間とは案外あっという間だ。最後の二、三日はほぼ全員が参加しなんとなく完成の日の目を見るお化け屋敷。
「まずは一番頑張った二人がやってみてよ」
そんな誰かの言葉。最後まで組み立てる作業よりも部品作りをしていた二人はどんな風になったのかよく知らず、中を見たいという欲求は確かにあったようだ。二つ返事で了承し、リハーサルも兼ねて中を見やる。
「おお、意外に雰囲気出てるな」
暗幕が作り出す闇と、淡くともすれば消えてしまいそうな明かりが本能的な恐れを刺激する。素人にしてはまあまあ良いんじゃないか、そんなことを思ったのだが。三分後、外に出た第一声。
「短いな」
所詮教室、限られた範囲ではあまりに短く仕掛け等々仕込む場所がない。どれだけのんびり歩いても三分が限界だったようだ。
「あはは、まあ文化祭だからね。雰囲気を楽しめれば良いんだよ」
文化って雰囲気で楽しむものだったのか、口には出さないが突っ込まずにいられない。
「そうだね、面白かったよ」
隣でそんなことを言う女に、お前はそれで良いのかよと思わずにいられない男。クラスメイトは苦笑いだ。
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