第一章 一目惚れ

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私は、初めて、桜よりも綺麗な人がいることを知った。 舞い散る桜の中に立つ白衣を着た男の人。 私は咲き誇る桜よりも男の人に目を奪われた。 「若葉(わかば)!こんな所に居たの?早くしないと始業式に遅れるよ」 梓(あずさ)の声を聞き我に返った。 「ごめん梓。すぐ行く」 梓にそう返事をして私は、もう一度振り返る。 けれどそこにはあの男の人は居なかった。 「やっぱり私の幻覚だったのかな…」 私は後ろ髪惹かれる思いでその場を後にした。 体育館に入り、すぐに白衣の男の人を探した。 多分、自覚はないけどこれが世に言う『一目惚れ』ってやつなんだろう。 でもいくら探しても白衣の男の人は居なかった。 始業式はすごく退屈だった。 校長先生の話は長いし、体育館は暑いしで私の集中力は一瞬で無くなった。 「次に新しく入ってきた先生の紹介をします。右から順に雪五夜(すずきいつや)先生、七五三木不律(しめぎふりつ)先生、最後に八月一日海翔(ほづみかいと)先生。計三名の先生方が今日からこの学校で働いて頂くことになりました。」 「ねぇ、若葉!右から三番目の先生、かっこよくない?まあ、coolnight7(アイドルグループ)の一七夜月柚琉(かのうゆずる)君には勝てないけどね!」 梓に話しかけられ、舞台を見るために顔を上げた。 「え、何で居るの?!」 驚きを隠せなかった私は、既に声を出していたことに気付く。 周りの人の視線にも。 だって舞台に立っているのは先程見かけた白衣を着た男の人だったからだ。 もし、驚かないことができていたら、自分を自分で誉めていたと思う。 「先生…だったんだ…」 私は、自分の幻覚ではなかったことに安心をして、ほっと胸を撫で下ろした。 「えー、では、先生方に一言ずつ自己紹介とご挨拶を頂きたいと思います。」 前半の二人の先生の挨拶は八月一日先生の話に集中したいと思っていたら全く聞いていなかった。 「……七五三木先生、ありがとうございました。次に八月一日先生お願いします。」 「初めまして。八月一日海翔です。僕は今年、先生になりました。理科を担当します。植物が好きなので、観察などを中心に授業をしたいと思います。わからないことだらけですが、どうぞよろしくお願いします。」 「よしっ!頑張ろう!」 そう心に誓い再び舞台を見る。 八月一日先生が礼をした。 これからの学校生活が凄く楽しみになった私は、今日から中学二年生だ。
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