文化祭

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黴びた臭いが舞い上がる。 目の前には、いつも体育館脇に積まれているマットが、聡太の背丈ほども積まれていた。 「ねえ、この緑のカバー……」 「うん」 端を摘んでめくると、折りたたまれた布の内側には、色とりどりの絵の具が塗られていた。 「隣のクラスの垂れ幕だ」 「誰がこんなことを……?」 「たぶん、君をはめるためだよ。君を妬んでる、誰かさん」 「どうして、そう思うの?」 「これに書かれていたからね。今までの物語も、これからの物語も」 聡太は文芸部誌を見せた。 体育館ライブを見にきていた隣のクラスの生徒を捕まえ、体育館倉庫の秘密を見せた。彼は大いに驚き、「まだ賞に間に合う!」と走ってどこかへ行った。 「さあ、僕らは、藤虎たちの演奏を聞こう。そういうシナリオなんだ」 瑠璃は混乱し、またまた目をぐりぐりさせている。 体育館ライブは大盛り上がりだった。 なんて言ったって、見た目も勉強もトップクラスの藤虎と富岡のいるバンドだ。 外は涼しい秋風が吹いているにも関わらず、体育館内は熱気に満ちていた。 一曲目が終わり、拍手が起こる。 富岡が、肩からベースを下げたまま前に出てきた。藤虎は「何やってるんだよ」という表情で見ている。富岡がマイクを取る。 「突然すみません。みなさんに伝えたいことがあります」富岡が話し始めた。「今、話題になってる部長の小説ですが。あれは、俺が書きました。全部、事実です」 周囲がどよめいた。 「俺は、ある女の子が社会的に破滅されそうになっているのに気づき、首謀者にやめさせようとしました。それは1年前の話。その時は、俺が藤虎にわざと勉強で負けることで話がついた。けど、藤虎と紅はまた、瑠璃をはめようとした」 生徒たちは、驚きで大きな声でささやきあった。 「2Aの垂れ幕は、体育館倉庫にあります。瑠璃の名前で借りた鍵を、ある人が盗んだんだな」 「それじゃ、瑠璃は何をしようとしてたっていうのよ!午後の誰もいない、体育館倉庫で!」 紅が叫ぶ。ほとんど泣きそうだった。 「瑠璃、こっちへ」 富岡が、瑠璃をステージへ呼んだ。 「努力の成果を見せようよ」 瑠璃は明らかに混乱している。しかし50人ほど集まった生徒に注目され、断る勇気もなかったのだろう。 前に進み始めた。
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