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文化祭前夜。
校庭を抜ける風が赤や黄色の葉を揺らして、体育館に運んできた。
紅(こう)はプリーツスカートを抑えて、秋の夜風に身をすくめる。
「寒いわ、早くして」
彼女の握るストラップに、月明かりに照らされた銀の鍵がぶら下がっている。
彼女の指示で、生徒会の後輩たちが、緑色の分厚い運動マットを倉庫に運び入れていた。
「せっかく体育館ライブをするのに、マットがあったら邪魔だからね。あ、あと埃っぽいから、このカバーをかけてちょうだい」
紅は緑の大きな布を足でつついた。
後輩たちは言われた通りに事を運ぶ。
最後に紅が、倉庫の引き戸に鍵をかけ、それを胸ポケットにしまった。
「俺、守衛さんに鍵返しに行きますよ」
気の利く後輩が、紅に掌を差し出す。紅は笑顔で首を振る。
「いいえ、先に持ち出した人から借りたの。その人に私が返しておくわ」
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