0人が本棚に入れています
本棚に追加
同じ頃、4階の教室まで、息を切らして階段を駆け上がっている男子生徒がいた。
「弁当箱、弁当箱……」
午後9時ぎりぎり。文化祭の準備で下校時間が伸ばされ、まだ校内にはちらほらと人がいる。
聡太は階段の踊り場に設置された机の前を通り過ぎたとき、思わずにやけてしまった。
机に山と積まれている、小冊子。
聡太が部長を務める文芸部の、短編集文化祭版だ。
なんだか気恥ずかしいものだけど、自分の書いた小説がこうして人の元に届くというのは、クリエイターとして冥利に尽きる。
どのくらいの人が手に取るか、不明だが。
文芸部誌はいつも余り、積まれた机が木目を見せることは今まで一度もなかった。
聡太は息を切らして、最後の一段を飛ばした。
「4階って、遠いんだよ…」
ぶつくさ言いながら教室に入り、1番奥、1番ベランダ側の自分の席へ向かう。
机のフックに、黒い弁当袋がぶら下がっていた。
教室は電気が付いていなかったが、月明かりで明るかった。開いたままのベランダの引き戸から、夜風が忍び込んでくる。
最後のやつ、閉め忘れたな。
弁当袋を手にとって、聡太は鍵を閉めようとベランダに近づいた。
その時、すりガラスの窓越しに、影が動いた。
最初のコメントを投稿しよう!