文化祭

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同じ頃、4階の教室まで、息を切らして階段を駆け上がっている男子生徒がいた。 「弁当箱、弁当箱……」 午後9時ぎりぎり。文化祭の準備で下校時間が伸ばされ、まだ校内にはちらほらと人がいる。 聡太は階段の踊り場に設置された机の前を通り過ぎたとき、思わずにやけてしまった。 机に山と積まれている、小冊子。 聡太が部長を務める文芸部の、短編集文化祭版だ。 なんだか気恥ずかしいものだけど、自分の書いた小説がこうして人の元に届くというのは、クリエイターとして冥利に尽きる。 どのくらいの人が手に取るか、不明だが。 文芸部誌はいつも余り、積まれた机が木目を見せることは今まで一度もなかった。 聡太は息を切らして、最後の一段を飛ばした。 「4階って、遠いんだよ…」 ぶつくさ言いながら教室に入り、1番奥、1番ベランダ側の自分の席へ向かう。 机のフックに、黒い弁当袋がぶら下がっていた。 教室は電気が付いていなかったが、月明かりで明るかった。開いたままのベランダの引き戸から、夜風が忍び込んでくる。 最後のやつ、閉め忘れたな。 弁当袋を手にとって、聡太は鍵を閉めようとベランダに近づいた。 その時、すりガラスの窓越しに、影が動いた。
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