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深海にあるばずの濁りを一切濾して、眩い金の光りを一滴混ぜ込んでからかためられた緑のエメラルドは、雪の光りを凝縮したダイヤモンドと、薔薇の血と真水で精製されたルビーと一緒に、香り高い紅茶の中へ落とされた。
「どうぞ召し上がって」
テーブルの向こうに座る夫人が、やわらかな口調で宝石の入ったティーカップを私に勧めた。
「……どうも、戴きます」
私は言われるままに、ティーカップを手に取り、紅茶に口を付ける。
カップの底で宝石が煌きながら揺れる。口には含まず飲む振りをした。
「このルビーはね、ここの庭の薔薇から作ったのよ」
夫人が横を見ながらどこか嬉しそうに言った。
つられて見ると、鉄柵に生い茂った赤い薔薇の花が見事に咲き誇っている。ここは狭い庭園だった。
狭っ苦しい中、ひしめくように色とりどりの花が咲き誇り、提げられた籠の中の小鳥が鳴き、白いテーブルと椅子が置かれている庭園だった。
「あなたがここに来てから、そろそろ一箇月ね。どう? ここには慣れたかしら」
夫人は優しく私に問いかける。私はシュガーポットの中に詰められた宝石に目線を逸らした。
そんな私を見て、夫人は少し困ったような声でふふふ、と笑った。
「そうよね、ごめんなさいね、中々慣れるものではないわよね。今回はなるべく甘い宝石を選んでみたのだけど、無理はしないでね」
夫人は言って、間を繋ぐようにシュガーポットの中から宝石を摘まんで、自らのティーカップの中へ投じた。
宝石の入った紅茶は軽くスプーンで混ぜられてから、夫人の口へ運ばれていった。……否、目の前の夫人曰く、宝石が入っているのは、『シュガーポット』ではなく『ジュエリーポット』、と、いうらしい。
この世界には砂糖が存在しない。
比喩などではなく、いわゆる糖分というものが、食べ物として認識されていない『世界』なのだ。
初めは不思議な土地に来てしまっただけだと思った。
花が咲き誇り、ゴシック風の建造物が建ち並ぶ。
やたらと煌びやかな印象ではあったが、一見、ただそれだけの土地に見えたのだ。
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