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「しばらく車がやってこない。いまのうちに渡ってしまおうぜ」 車が絶対有利になった交通ルール。 信号はいくら待っても青にならなかった。 「いつまで待つつもりだ? 渡ってしまおう」 片側5車線の道路を一気に渡るには、相当の脚力と相当の勇気が必要だった。 「オレはもう待てない。先に行くぜ!」と叫びながら、ひとりの若者が道路に飛び出した。 続いて、ひとり、またひとりと飛び出して行った。 最初の男が渡りきった時、左側から猛スピードの車がやってきた。 (あん)(じょう)、間に合わず、最後の男は吹っ飛ばされていった。 「くっ! またひとり()られたか」 最初に渡った男らは、そうは言うものの、 「しょうがないな」と言って肩をすくめた。 これは戦争なのだ。 交通戦争だ。 車を運転するドライバーに対して、歩行者はウォーカーと呼ばれていた。 いくらウォーカーが絶対不利だからといって、(あきら)めてしまうことはできなかった。 急いでいるのはドライバーだけじゃない。 ウォーカーだって、それぞれの目的があって急いでいるのだ。 ならば、いっそのことドライバー側になればいいって言うやつもいる。 しかし、ウォーカーには、ウォーカーのプライドがあった。 そして、スリルを楽しむやつもいた。
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