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あるアパートの一室。
そこに居るのは少女と男。
「ねぇ、おじさん」
おじさん…そんなに老けて見えるのだろうか…
――俺とこの娘は知り合いでも何でもない。
赤の他人。もっと言えば被害者と加害者。
俺は、この娘を誘拐した。
お金の為とか、劣情とか、そんなんじゃなかった。
ただ、気付いたら声を掛けていて、連れてきてしまった。
自分で自分が何をしているのか分からなくなる。
「おじさんってば!」
その声で我に帰る。
「え…あぁ、何だい?」
微笑みながら――ちゃんと笑えているのだろうか――応える。
「何で私をおうちに連れてきたの?」
「え…あぁ、えっと…何でだろう…」
分からない。何故だろう。
「ふふっ。おじさん、変だね」
「うん。変なんだ、俺って」
二人で笑う。何かが満たされていく感覚。
「ね、そろそろ帰って良い?」
「…っそれは…」
「大丈夫、おじさんの事は言わないから、ね?」
そうして彼女は去っていった。
満たされた何かが零れていく。
それでも、俺は笑っていた。
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