ある日の夢

2/2
前へ
/26ページ
次へ
夢を見た。 夢だから当たり前だと言えばその通りだが、何の脈絡もない話だった。 田圃や畑が広がる田舎の風景。 隣には白いワンピースに麦藁帽子の少女。 ――見覚えのない少女だ。 自分とは親しい間柄なのだろう。 自分と手を繋ぎ、笑いながら隣を歩いている。 しかし、握った手の感触はない。 その手の温度も感じられない。 ――この少女は誰なのだろう。 色々な話をしながら二人で歩いていく。 しかし、自分の耳に届くのは風の音だけ。 少女の声は聞こえない。 それでも、少女と話すのは楽しかった。 ――この場所も見覚えがない。 不意に少女が指をさす。 用水路のような、池のような水の溜まり場。 その中で何かが光った。魚だ。 ――ここは何処なのだろう。 魚が跳ねた。 風が吹き、少女の麦藁帽子が池に落ちる。 反射的に体が動いた。 水に飛び込み、麦藁帽子を掴み振り返る。 少女の驚いた顔が見える。 ――自分は誰なのだろう。 水から上がり、麦藁帽子を少女に渡す。 少女が微笑む。 ――自分は自分なのだろうか。 ――よく知った自分の部屋で、よく知った自分の体で目が覚める。 あの風景、あの少女。 その答は、未だに見つからない。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加