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「俺の画力に限界があるのは知ってるだろ?そこは若い君たちの逞しい想像力でカバーしてください」 「若いって、あんま変わんねえじゃん」 睦の眉がピクリと動く。「若いって…」と教卓に両手をつき、うな垂れる。 「若いってだけで押し付けられる問題の数々。それもぜーんぶ可愛い生徒たちがやらかした尻拭いだ。社会の歯車になった俺は毎日のようにそれに駆り出され、馬車馬のように働く。若さ故のしょっぱい経験なんてもう出来ない。社会に出て自由になったつもりが俺は不自由になってた」 「また何かあったのかよ…」 「そんなもん、宮本、お前が一番よく知ってんだろ?」 「いやいや。あれは不可抗力だから!」 「不可抗力で、なぜに他校の女子さんたちが徒党を組んで我が校に押し寄せるんだ?お前の下半身事情なんて先生、聞きたくありません」 「若さ故の暴走。先生もあるだろ?」 「あったらクビだよ、クビ」 「いやいや、まぁまぁ!!でもさ、前途洋々な俺たちにもうちょっとさ、希望あふれる言葉はねぇの?社会に疲れた大人の愚痴なんて俺たちだって聞きたくねぇよ」 「これ以上希望で溢れさせてどうすんだよ!!夢と希望いっぱいの能天気なお前たちにはこれぐらい言ってちょうどだろ?不自由な囲いの中が実は楽園だったなんて、そこは想像できないだろうから今から言っとく!!」 「そういうもんか…」 「そういうもんなんだよ。だから俺に気遣いながら君たちも今を満喫するように。同じ日はもう二度と戻ってこない。無茶できるのは今だけだ。でも羽目は外すな!はい、授業続けます」 「ナニその格言。もうそれ、満喫できねぇし…」 「宮本、お前はもう十分いい思いをした」 職員室でまたこってり絞られたな…と、口にせずともこの場にいる全員が思う。睦は若くて生徒に人気がある。一部のベテラン先生に睨まれていることは生徒たちも承知している。 「哺乳類では20年ぐらい前にクローン羊を作ることに成功している。名前はドリー。しかしドリーは羊の平均寿命の半分で死んだ」 「クローンと関係あんの?」 睦の授業は誰彼構わず、発言する。一方通行な講義ではなく、ディスカッション方式だ。 「いい質問だな。同じ農場の羊も似た病気にかかっているから関係ないと言われているが…」
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