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「あ、あの!」
俺はほぼ勢いだけに任せて立ち上がり、鈴蘭さんの両手を強引につかんだ。
ほかの店員の目もあったが、もうそんなことまで気にかけている余裕なんて俺にはあるわけがない。
「は、はい!!」
鈴蘭さんは驚いて一瞬びくんと体を跳ねさせたが、掴まれた両手を振りほどこうとする様子はなく嫌がってはいない。
ひとまず安心した。ここで「やめろキモい死ね」なんて言われた時には俺はきっと本当に死ぬか、もしくは死ぬまで立ち上がれなかったことだろう。言われた通りこの場で自殺する可能性も考えられる。
(よし…もう後には引けない、伝えろ、言え、翼…!)
沸騰したやかんみたいに熱くなった顔を上げることもできず、俺はガタガタ震えながら少しずつ言葉を絞り出す。
「あ……あの、俺、実は明日から出張で、し、し…しばらくの間、ここに来れなくなるんです」
「そ、そうなんですか…?それは…寂しいですね。しばらくというのはどれくらいでしょうか?」
彼女の声も若干震えていたが、それは緊張ではなくてもしかしたら恐怖…と、一瞬弱気になったが、ここまでしてしまったらもうなんでもないですなんて言える空気じゃない。
「四カ月です…四カ月もここに来れないなんて、俺も寂しいですし、それに何より、鈴蘭さんに会えないことが一番寂しいと思っています」
「私だって寂しいですよ、椎名さん。椎名さんと話すの、私も楽しいと思ってますから」
彼女の声の震えは収まるどころか徐々にその振幅を増していく。
これはいったい何が理由の震えなんだ!
言っていいのか?
いや、言いに来たんだろ?
言うしかない!
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