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〈scene 7【last episode Ⅰ】〉
開いた画面にはmessageが届いていた。
あの人から。
「ホームで待っています」
微かに残るリリクテノールの記憶に乗って、短い言葉が頭と心にリフレインしている。
少し早くなる鼓動は、ときめきのためなのか、罪の意識なのか。
もう一度、短い言葉を辿った刹那、すべての迷いや戸惑いが消える。
と同時に、新しい不安がわき上がる。
こうなるまでは考えもしなかった。
誘いのmessageを見た時も、考えもしなかった。
私のことをわかるのだろうか?
あの人に逢ったのは、あの夜の一度だけ。
しかも二人きりではない。
他にも女性はいたし、彼女たちとも話していた。
あの人は私を見つけられるのだろうか?
ホームで待つあの人が、私を見つけてくれなかったら、すれ違う時さえも気づかなかったら、私はその場で泣かずにいられるのだろうか。
『黒い服を着ています』
返信をした。
車内アナウンスが、もうすぐ到着を告げる。
そして私を最上級の後悔が襲う。
今日は白い服を着ている。
なぜ嘘をついてしまったんだろう。
あの人を困らせるため?
最後の審判のつもり?
・・・違う。わかっている。
それはもっと前向きな何か。
背徳への一歩。
後悔は期待へと姿を変えていく。
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