〈scene 7【last episode Ⅰ】〉

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私はすぐにわかった。 ホームに降りた瞬間に、スーツ姿のその人が。 彼以外のすべてがぼやけて見える。 降り立った場所から、少しづつ、その人へと歩を進めた。 高鳴る気持ちとは裏腹に、丁寧に一歩づつ。 まるで小さな決心を重ねていくように。 ゆっくりと大きな歩幅で、その人は近づいてきた。 「こんにちは」 その一言で、私の中のあらゆるガードが崩れ落ちた。 あれほどに恋い焦がれたリリックテノール。 「来たんですね」 「来ちゃいました・・」 「僕には黒に見えませんが」 すべてを見透かされた思いがして、 視線を彼の足元に落とした。 「バカですね」  彼が言う。 「バカですね」 私が言う。 顔をあげるのが怖い。 どんな表情をしているのだろう。 ちょっと困っていてもいいから、微笑んでいてください。 眼元だけでも、口元だけでもいいから、微笑んでいてください。 今宵の月も美しいのだろう。 Dianaはどんないたずらを仕掛けてくるのだろう。 その人がそっと、俯いたままの私の手をとる。 〈ひとつ目の fin 〉
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