第1章

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布施駅は石切駅から西(大阪市内方面)へ11駅目。 まだ東大阪市内である。 邦茂の今の職場では、そう言う話は聞かれなかった。 「その頃は引きこもりやったけど、その後は働きにも出はって、結婚もしはったやん」 と山神が言うと 「ええ。1年間、家出して行方不明になってんけど、帰って来てからは、人が変わったように仕事も探して行くようになって」 「えっ!行方不明?」 山神は老婆に少し近寄り、声を張った。 行方不明とは、これまた尋常ではない。 「どういうことですか?その辺のこと、詳しく教えて下さい」 山神はさらに彼女に詰め寄った。 するとヨシ子は当時の記憶をたどった。 「あれは確か……… 28年前ですわ……… 息子が22で、さっきも言った通り、仕事も行かんと、毎日部屋に閉じ混もっていた頃。 ある日私が仕事から帰って来たら、部屋いてへん。 『また漫画本でも買いに出掛けたんかなぁ。金持ってへんくせに』 と、思ったんやけど、居間のちゃぶ台の上に1枚のメモ用紙が置いてあり 『少しの間、家をでます。探さないで下さい。きっと戻りますので心配しないで下さい。なのでケーサツにも行かないで下さい』 と書いてあったんですわ。 ビックリして夫と探したんですけど……」 「ケーサツには届けはったん?」 「はい。ケーサツ行くなー書いてあってんけど、やはり心配やし…… せやけど、対応したおまわりさんに 『どっかで仕事して暮らしてはるんちゃいますか?』 って、親身になって貰われへんかったん覚えてますわ」
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