第1章

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「そうや、オレ、アノ時の犯人や。強盗殺人犯なんや」 などともカミングアウト出来るハズもなく (あいつ、気付きよったんやな…… どないしたらエエねん…) と、さらに病んでいたに違いない。 (はっ!もしかして夫は自殺?) もうどうして良いか判らない夫は、自分で転んで自殺した。 いや、さすがにそれは、やろうと思っていても出来るものでもないし、死なない確率のほうが高い。 アレは自分でも思ってもみない不慮の転倒事故であろう。 アノ時、布記子が助けるそぶりを見せない上に、救急車をなかなか呼ぶ気配がないようなので、悟ったのだろう。 「やはり妻は気付いていた。そして、オレの死を望んでいる」 と。 だから助けも求めず、なすがまま、身を任せた。 それならこのまま死んでもエエと。 自分はそれなりの罪を犯してしまったのだからと。 (そうや、きっとそうなんや) 助手席の義母は、実家の隣の迷惑頑固ジジイのボヤきを始めていたが、布記子は、そんなの耳に入っていなかった。 「……てな、その頑固ジジイに、一言言うたってんやんかぁ~。そしたらな、ジジイ、なんて言うた思う?布記ちゃん」 「え?あ、ああ。お隣さんて、水田さんですよね。なんて言わはったん?」 「『近くで見ると、アンタ、可愛いなぁ~』やて」 「ホンマですか~?」 布記子は、クスッと笑った。
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