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晴明様に手を引かれ、森の奥へと走っていき、それからどのくらい時間がたったのだろうか。
今自分と晴明様は、古い小屋の中にいる。もう誰も使っておらず、何のために使われたのかすらわからない。蜘蛛の巣が張り巡らされており、一言でいえば、"汚い"。
「もうここまでは追ってこないだろう。大丈夫か、輝久。」
「は、はい...。」
「状況については察しがついている。お前の異常な妖力が、屋敷の者達を騒がせているだろう。」
「そんな...!お、俺が...時間旅なんてするから...。」
そうだ、あの日時間旅のやり方なんて知らなければこんなことにならなかった。
何で自分が__俺がこんな目に合わなければならないんだ。
時間旅なんて...しなければ...。
「...いや、違う。」
「...え?」
思いもよらぬ言葉に、自分は晴明様の方を見つめた。
晴明様は、窓の外の夜空を見つめていた。
今夜は満月。しかしその月は今夜に限って妖しくも美しく輝いていた。
「...どうでもいい話だが、輝久、お前の名前をつけた時も、このような月だった。」
「...晴明様。」
月光が窓から零れるように輝いていた。
思わず自分はその月に見とれてしまった。
輝久...いい名前だ。
「...輝久、よく聞くんだ。」
「は、はい。」
晴明様は、自分の方を見つめ、近寄ってきた。
その時の晴明様の眼差しは、まるで今後の運命を知っているかのような鋭い眼差しだった。
「お前は今の名を捨てなさい。今から新たな名をつける。」
「え、えぇ!?そんな突然に...。」
「これもまた、お前を生かすためだ。」
...反発をしようとしたが、晴明様の真剣な声に思わず言葉を詰まらせた。
"生きるため"に、名を捨てろ。
そんなこと、自分にはできなかった。
この"輝久"という名前が好きだったのに...。
「...そうだな...。お前のその鋭い眼差しがまるで龍のように似ている。」
「龍...ですか。」
龍は水を司る水神様だと聞いている。
自分はまだ見たことないが、晴明様は恐らく見たことはあるだろう。
きっとその姿は荒々しくも美しいだろう。
見てみたい、ふとそう思った。
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