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「.......ぁ.....ぇ.......。」
状況が飲み込めなかった。
突然横に、湖の方に龍神様が現れるなんて、まず予想すらしなかった。さっきまで気配すら何も感じなかったのに...。
しかし晴明様は慣れているかのようで全く動じなかった。
《堅苦しいのは嫌いだ。いつものようにすればいいじゃないか晴明。》
「ははは、そうだな、私と出会って20年以上は経ってますからなぁ...。」
「に、にじゅ...!?」
また驚いた。
自分が知らない間に20年以上も会っていたなんて、陰陽師とはこんなにも凄いのか...。
「そうだ、輝久の新しい名を考えるきっかけとして、龍神に会いに来たんだった。何か、いい名はありますか?」
《名...か。輝久という名もいいが、今の状況ではそうはいかないか...。》
二人...いや、晴明様と龍神様は俺の名前を真剣に考え始めた。
"輝久"という名が凄く好きだったのに...。
《...そういえば晴明、お前、輝久に「お前のその鋭い眼差し、まるで龍に似ている」と言っていたな。
我は眼差しだけでなく、生き様も龍そのものだと思うが...。》
龍神様の口からおかしな言葉が出てきた。
自分は龍なのに、俺の生き様そのものを龍だと思っている。おかしな話だ。
その時腕の中にいた子狐が「キュゥ...」という弱ったような声を出した。いや、本当に弱っている。このままでは子狐の命が危ない。
...その時俺は、子狐を想うと同時に、人間の行為が愚かに思えてきた。
《..."龍生"...というのはどうか?》
「...は、はい?」
「"龍"のようにたくましく"生"きろ、という事だな。」
《その通りだ。》
龍のようにたくましく生きる...か。
...悪くない。
俺はもう一度龍神様を見つめた。
鋭い眼差し、鋭い牙、そして蛇のような姿、でも建物を丸のみしそうな大きさ、月光に照らされ色鮮やかに輝く鱗のようなもの、その姿は凛々しく、まさに神様とも言うべき姿だった。
「...輝久...いや、龍生、覚悟はよいか?」
「はい、晴明様。」
「...生きろ、龍生。」
「はいっ。」
「キュー!!」
「あ、ああ!わ、わりい!あーどうすれば...。」
《我が預かる。元々我の仲間でもある。
お前の連れになってもいいように育ててやる。》
「...へ?は、はい。」
その後、俺は百鬼夜行道を自分で開け、何度も行き来したあの未来の世界、"平成"という時代の世界へ行き、そこで修行した....はずだった。
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