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大学の入学式、遠目にその黒を見つけた。
ワケも分からず、ただもう一度見たかったその黒は変わらず鮮やかで、静かに春の日差しを受け止めていた。
恋焦がれて、求めて、今、手の中にある幸福を何と言おう。
変わらず桜は舞って、新緑が芽吹き始める。
共に過ごす春は、もう四度目だ。
「春のにおいがする」
そう言って空を仰ぐ彼は仄かに微笑んでいる。
隣で眺めていると、不意に視線が絡んだ。
一際優しく緩む瞳がオレを映してる。
初めて見た時、ただただ深い水面のようだと思ったその黒は、思っていたよりもずっと暖かく世界を映して揺れる。
刺すようだった風はもう、大分やわらかい。
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