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文化祭ラビリンス
耳障りな雑音が煩くて、仁はイヤホンを耳にねじ込んだ。適当にプレイリストを再生する。外界にも負けず劣らずな爆音が鼓膜を震わし、余計な音を掻き消してくれる。それがわかると、仁はほっと息を吐いた。
文化祭の中庭。生徒会による取り決めで、この場所での出店は禁じられ、来校者の休憩所となっている。仁の他にも、この場所で休んでいる人達がいるが、彼は気にせず一人で四人掛けのテーブルを陣取っていた。
ふと、彼の肩を叩く指がある。
――めんどくさ……。
耳からイヤホンも外さず、じろりと背後を見遣る。
道に迷った来校者なら追い返せばいい。クラスになかなか協力しない自分を呼び戻しにきたクラスメートか担任であれば、なおさらだ。
「――――。――――っ」
彼にとって、今一番面倒臭い人間が目の前に立っていた。常識的な音量で、彼が音楽に興じていると思っているのか、彼女は口をパクパクと開閉させながら何やら訴えているが、口の動きから察するに、仁にとって今、最も面倒臭いこと――文化祭の模擬店の店番――に連れ戻すためらしい。
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