堕ちる男

8/11
前へ
/37ページ
次へ
「な、に、しようとしてるんですか?」 おそるおそる出した声はうわずっていた。 さっきから一歩も踏み出せないままなので、かけた言葉が耳に届くかどうかもわからないほど距離がある。 相手は驚いた様子も見せず、無言でちらりとこちらに目を向けると、またすぐに視線を足元に落とした。 「あ……の、だいじょうぶ、ですか?」 私はすぐに怖くなる。 興味を持たれないことが、怖くなる。 自分に魅力がないのはわかっていても、あまりに無意味だと言わんばかりの態度をとられるのは悲しい、とても。 「この世には」 「え?」 男がぽつりとつぶやいた言葉に、思いきり反応してしまう自分がいた。 声を聞けて嬉しかった。 もっと聞かせて。 ……あなたは誰? どうしてここに? けれど次の瞬間、男が吐いたのは、呪いの言葉だった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加