堕ちる男

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斜めに傾いた体勢のまま、のけぞるようにして男がこちらを見た。 束の間スローモーションのように時がゆっくりと流れる。 まるで時計の針がとまったような空間で、静かにお互いが見つめあう。 「死んだほうがいい人間なんて……」 私の震える唇が動いた瞬間、時間の流れが元に戻った。 止めることも、巻き戻すこともできないまま。 なすすべもなく重力に従い落ちてゆく体。 「だけどっ、それは、あなたじゃないっっ!!」 もう遅い。 もう手遅れ。 伝えたい言葉は届かない。 私たちは繋がらない。 「……絶対ちがう」 よたよたと力なく、その場に座り込むしかなくなる私。 夜空にむなしく響くつぶやき。 ドスンッ!! 地面を揺らすほどの大きな音と振動。 そして静寂。
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