踏みとどまれない

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あの人だって同じ。 こんなことになったのは己の愚行のせいだと悲嘆に暮れればいい。 破滅した人生を後悔すればいい。 私を選んだこと。 彼女を選んだこと。 馬鹿な女二人に関わったこと。 だからそう。 誰に咎められようとも諫められようとも、私はどうしてもそれを実行しなくちゃならない。 もう今では、そのためだけに生かされているような気がする。 そのためだけに生まれてきたような気さえする。 こうなることは全て運命だったんだ。 今までずっと苦しんできたのには理由があった。 あの女が報いを受けるのも必然。 逃れられない、誰も彼も。 思いとどまらないし、諦めるなんてしない。 目的を達成するには犠牲がつきもの。 家族や親せきに迷惑をかけたくないから、何とか捕まらないで済む方法を探していたけれど、相手はプロの捜査官。 素人が起こす犯罪なんて、証拠からすぐ足がつくに決まってる。 覚悟を決めたと言いつつ無駄にあがくのも見苦しい。 両親には本当に申し訳ないけれど、このまま生き地獄を歩み続けるつもりもないので、事がなった暁には潔く死刑にしてもらえればいいと思う。 彼女と私は相討ち。 人生も痛み分け。 おあいこ。 私には、できる。 死ぬ覚悟があれば、なんでもできるはずだよね? 例えばそう、あの屋上の男のように。 彼の最期のほほえみが、私の肩を押してくれる。 数週間前のあの晩、目に焼きついた光景を思い出し、ぞくりと鳥肌がたった。 瞬間、手の中のスマホがバイブする。 非通知の着信? 誰だろう? 仕事関係なら無視できない。 用事はないけれど、今さら休日出勤は勘弁してほしい。 スワイプすると同時に、画面から流れでてきた声に、私は凍りつく。 「神奈川県警、本部刑事部捜査課の山崎と申します」 *******
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