踏みとどまれない

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「すみません。 わざわざお呼びだてしてしまって」 「あ、いえ。 とんでもないです。 具合はどうですか?」 「はい。 何か所か骨折はしていますけど、来週には退院できると言われました。 あんなことをしておいて退院を喜んでいるなんて、自分でもおかしいですけれど」 「いえ、そんな」 「なんていうか、痛いのが、苦手で……」 警察から電話がかかって来た時は一瞬、自分の計画がバレたのかと思って焦った。 けれど、よく考えたら誰にも話していない腹の内が、どこかから漏れ伝わるはずもない。 電話先の相手は、飛び降り自殺した男を担当している捜査官だった。 そういえば屋上で震えているところを保護され、事情を聞かれた際、念のためと言われ警察に連絡先を伝えていた。 電話をかけてきた警官によると、ビルから飛び降りた男は、植え込みの上に落ち一命をとりとめたらしかった。 今は入院中だけれど、ひどく反省していて、私にお礼を言いたいと話している。 もし嫌でなければ連絡をとってやって欲しい。 警官はそう言って、入院先の病院名と電話番号を教えてきた。 少し悩んだあと、私は思いきって彼にコンタクトをとった。 会って話してみたいと感じていた。 もう一度。 なんとなく。 なんとなく。
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