私の優しい殺人鬼

踏みとどまれない

「じゃあ聞きますけど、自暴自棄になって無闇に通行人を襲う通り魔がいたとします。 迷惑なやつ。 何の罪もない善良な人々が犠牲になるくらいなら、一人で勝手に死ねば良かったのに。 あなたはそう思いませんか？」

「え？ はあ、まあ」

「同じようなものです。 僕も通り魔も。 今回は失敗してしまいましたが、次に飛ぶときは、ちゃんと下に植え込みがないか確かめてからにしようと思います。 もう痛い思いをするのは嫌だから」

「反省、したんじゃなかったんですか？ そう聞いたけど」

「何を反省するんですか？」

言葉に詰まる。 生きることがつらくて死んだほうが楽だと思ってる人間を、この世に踏みとどまらせる理由がみつからない。 この人はとても壊れやすいんだろう。 生きていくには精神が脆弱すぎる。 それでも、もっと善良でない人間もいる。 無価値だと思える人間も。 そうだ私だって変わらない。 他に死んだほうがいいと思える相手がいるだけ。