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「僕が興味を惹かれることは……誰にも決して理解されません。 許されもしない。 あなたにはあるんでしょうね。 手に入れたいものがたくさん。 だから僕の気持ちがわからないんでしょう」
そんなふうに言われ、突き放された気がした。 にわかに腹がたつ。 理解しあえない、通じ合わないことに苛立ち、悔しくて怒りがこみあげてくる。 何にも知らない子供のくせに。 人生は苦痛だよ。 本当につらいことも悲しいことも悔しいことも、経験もしないまま、怯えて逃げ出そうとしてるだけでしょ? 知らないなら教えてあげる。 思いつめているのは何もそっちばかりじゃないのだから。
「そうですね。 私にはありますよ。 ずっと望んできたもの。 幼い頃からずっと夢だったもの。 でももう絶対に手に入りません、どんなに努力しようとも。 それが私にとって幸せの全てなのに。 喉から手が出るほど欲しくて、お金にだって代えられなくて。 だから羨ましくてどうしようもなくなるんです。 持っている人が! 恵まれているくせに有難く思えない人が! 当たり前だと思ってること自体が傲慢です。 世の中は不公平ですよね? 誰にでも簡単に手に入るものだよ、幸せの基本形だよ……そう言って見せつけておきながら、だけど私にだけ無理だなんて、我慢しろだなんて、どうして? ひどいですよね? もういいですけど、ちっとも良くなんかない。 あきらめ方もわからない。 どうすればいいんですか? どうすればよかったんですか? 私は、いったい」
相手が伸ばした手が、ベッドサイドに立って唇を噛む私の指先に触れた。
思いのほか力強くて、思いのほかあたたかかった。
「あの。 話、詳しく聞かせてもらえませんか? やっぱりあの時の直感は間違いじゃなかった。 僕でよければ力になれそうな気がするんです。 どうせ死ぬのなら誰かの役に立って死にたい。 あなたの役に立って、それから死ぬことにします」
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