産みたい女<回想>

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『どうしたの? この傷』 私の太ももの内側に目をとめて、その人は言った。 『小さい頃に転んで怪我した痕。 あんまり見ないで。 恥ずかしいから』 消えない古傷。 苦しい言い訳。 十字に刻まれた、その痕跡。 私のしるし。 おかしいと思われただろうか。 体が強張る。 意志とは無関係に、両足に力が入っていた。 『ふぅん。 そっか』 追求はされず、そのまま何事もなかったかのように続けられる愛撫。 押し寄せる感覚とともに、忘れたくても忘れられない記憶がよみがえる。
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