産みたい女<回想>

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高校二年の時、初めてできた彼氏の存在に浮かれていた。 部活の先輩。ずっと憧れていた人。 自分なんかが付き合えるだなんて、彼女にしてもらえるなんて夢にも思っていなかった。 好きだと言われて舞いあがり、一緒にいられるだけで胸が高鳴った。 つきあって半年が過ぎた頃には、完全な所有物になっていた。 身も心も。 飼い慣らされた犬。 彼の言うことは全て聞いたし、命令には従った。 自分の意思なんてなく。 相手の思うがまま。 考えることを停止して。 望むように振る舞った。 行為の最中に傷つけられることは日常茶飯事になっていた。 痛みをこらえ涙を流す私を見て、むこうは興奮するようだった。 不思議だったけれど、抱きしめてもらえるのなら、それでいいと思っていた。 しるしだからと言われ、単純に嬉しかった。 そんな関係おかしいよと友人に助言され、ようやく気づく。 すでに三年がたっていた。 そう言われるまで、何が普通で何が正常じゃないのか、私にはわからなったから。 ただぼんやりと思っていた。 ……もしかしたら、もっと幸せな方法が世の中にはあるのかもしれない。 自分から切りだし別れたあとも、ずっと悲しくて、寂しかった。 おそらくは依存していたんだ。 そんな狂った関係にさえ。 ふさぎ込む私を心配して、大学の友人たちは遊びに誘ってくれた。 行く先で出会いもあったけれど、刻み込まれたしるしは消えなかった。 いつまでも。 いつまでも。
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