産みたい女<回想>

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けっきょく私が、ごくごく普通の一般的な恋愛関係と言われるものを知るのは社会人になってから。 相手は同期入社の優しい顔立ちの人。 飲み会のたびに盛りあげ役を買ってでる。 明るくて親切で調子がいい。 周囲の誰からも好かれていた。 嘘のつけない真っ直ぐな瞳。 影のないところ。 自分とも元彼ともぜんぜん違う気がして惹かれた。 こんなこと言ったら嫌われるかもしれないけど、だから嫌だったらさっさと振ってくれていいけど……あ、しまった! 言う前に告白するってバレるな、これ。 何やってんだろ、まぁいいや。 せっかく寝ないで考えてきたから、とりあえず言うだけ言わせて。 えっと、あの、そうだなんていうか前からけっこう大人っぽいな、というか見た目しっかりしてそうなくせに仕事ミスって泣きそうになってるのとか、ちょっと可愛いなと思ってて……あれ大丈夫? ダメなら、そろそろ断ってくれても、あ、笑うのはちょっと勘弁してください。 そうとう恥ずかしいうえに、地味に傷つくから。 そんな不器用な長い言葉からはじまって、続く四年間。 いろいろあった。 不安はずっと消えなくて。 例えば二人の初めての夜。 しるしのこと。 問い詰められたらどうしよう? とか。 過去は絶対に秘密にしておきたかった。 知られたくなかった。 踏み込まれたくなかった。 ひかれるのは予想がついたし。 同情されたりもしたくなかった。 けれど、そのことがきっかけで別れ話になるのは、もっと嫌だった。 もうじゅうぶん好きになっていた。 二人の間に障害があるなら、全て取り払ってしまいたい。 そんなふうに思えるほど大切だと感じてた。 間違いない。 愛し方も愛され方も、本当のこと正しいこと、知らなかった何もかもを教えてくれた。 自分の過去を後悔するくらいに。 あんなのは全部、あやまちだったと思うくらいに。
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