産みたい女<回想>

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結婚して瞬く間に、三年がたった。 仕事が忙しいのもあったけれど、お互いずっと赤ちゃんを欲しいと思っていたのに妊娠する気配が全くない。 自然に授かるものだと考えていたのに、どうして? 妊活で排卵日を調べたりして。 そして生理が来るたび落ち込む。 その繰り返し。 四年目に差し掛かる頃、病院に駆け込んだ。 三十を過ぎて不妊治療をはじめる。 専門医で検査をした結果、突きつけられた事実。 原因は私の体にあった。 どうやら子宮に問題があるらしく、可能性はほとんどゼロだという診断。 愕然とした。 どこをどうやって家に帰ったのかわからない。 泣きじゃくってた。 三日三晩。 いやたぶんもっと長い間。 心の中でずっと涙がとまらなかった。 べつに子どもなんていらないよ。 二人で趣味でも見つけて楽しくやっていけばいいだろ。 夫のその人は明るい言動で慰めてくれたけれど、私は聞く耳をもたなかった。 そんなの嘘だとわかっていた。 子ども好きなのを知ってる。 男の子だったらスポーツさせて。 女の子だったらピアノを習わせて。 どっちに似ても美形だろなんて、そんな話ばかりしてたじゃない。 落ち込んで。 落ち込んで。八つ当たり。 ごめんなさい。 二人でずっと頑張ってきたのに私のせいだったね。 孫の顔をみたがってる義理の両親にも申し訳ない。 夫は一人っ子なのに。 私なんかと結婚したばっかりに人生の楽しみを失ってしまった。 本当にごめんなさい。 いつも気丈に支えてくれるけど、だからこそ他の人とだったら、もっと幸せになれたかもしれないのに……そんなふうに思って、相手の優しささえ素直に受け入れられなくなる。 鬱がかった心理状況が長く続き、次第に子ども、という単語を聞くのさえつらくなった。 休日は引きこもりがち。 次々に結婚して、家族写真を送りつけてくる友人たち。 年賀状も見られなくなっていた。 それでも日常は進んでいく。 一年たち二年たち。 苦しみが少しずつ薄まっていって、外出先で家族や子ども連れを見ても顔を伏せなくなり、仲良し家族をうたったテレビコマーシャルが流れてもチャンネルを変えなくなった頃。 平穏な人生なんて嘘だと悟る。 崩壊は不意に訪れるもの。 何の前触れもなく。
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