深淵へ、共に

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共感性の欠落は、相手を思いやれないからじゃない。 繊細すぎて傷つくことに耐えられないせい。 逃げ出すことばかりを考えてしまう。 「優しいから傷つきやすいんでしょう。 強くなりたいのなら他人のせいにすればいいだけ。 自分は何も悪くないと思えばいいのに。 死ぬことを考えるより前に、もっと我儘になるほうが楽ですよ」 そう。 だから自分勝手だと罵られようとも、軽薄だと非難されようとも、私はその道を選ぶんだ。 「他人を傷つけてまで生きる価値があるでしょうか? そうは思えないな」 ため息まじりの自問自答。 どうにもならない、やるせなさと自暴自棄と。 「生きる価値って何ですか?」 私の問いかけに、小首をかしげ難しそうな顔をする。 「何だろう。 人から必要とされること? 曖昧ですね」 「私にとっては子供を産むことでした。 種の存続が生命の究極的意義だと、学生時代にとある授業で教わったんです。 その時はっとしました。 それまでただ漠然と生きてきた自分にも、生を授けられた意味があるんだと感動して、やるべきことが見つかったような気分になりました。 この命をリレーして、一生懸命に育み、次へ繋げることが与えらえれた使命なんだと感じたんです。 あなたからすれば極端な話かもしれませんけれど」 そうして、その意義を失った今、私はただの怨念と成り果てる。 希望をなくしたからといって、自分だけが苦汁をなめさせられたまま死ねない。 どんな手をつかっても、誰を傷つけようとも、目的を果たさなければ……。
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