深淵へ、共に

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「まあ考え方は人それぞれですから。 僕が理解できないからと言って何も問題はありません。ただあなたの話を聞いて、興味をそそられた部分もあります。 高校生の頃のあなたがつきあっていたという相手の話。 彼の心情なら少しは理解できそうな気がするな」 拍子抜けした。 そんなことをわかってほしくて話をしたわけじゃないから。 「思い出しますか? 彼のこと。 今頃どうしてるかな、と思う時もありますか?」 「ないです。 もう会うこともありません」 きっぱりと言いきった私をちらりと横目で見て、それからまた視線を落とす相手。 「そうですか。 そうですよね」 「会えない理由を知りたいですか?」 問いかけたら、叱られた犬のような目をして答えた。 「……いないからでしょう。 もうこの世には」 「どうして、わかるんですか?」 驚いて尋ねる。 彼がその後どうなったかなんて、一度も口にはしていない。 「べつに。 そんな気がしただけです。 なんとなく」
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