深淵へ、共に

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「どういう、意味?」 私が問い返すと、一つ息を吐き、気を取り直したように笑った。 「それより未来の話をしませんか? これからどうしますか? どうしたいですか?」 おかしな言い方をすると思った。 未来なんてないのに。 私にも、あなたにもね。 「したいことは一つしかありません」 私の返事を聞いて、相手はこくりと頷く。 ゆっくりと笑顔を見せた。 妖艶な死神のほほえみ。 「死んだほうがいい人間は、元の旦那さんですか?」 首を横に振る。 話したくない過去はある。私にだって。 触れられたくない。 誰にも踏み込まれたくない過去。 それをあえて話したのにも理由があった。 もう理解してるよね? 私の望み。 欲するもの。 離婚が決まったのをいいことに、すかさず再婚を決めた男に恨みもある。 けれど軽薄な男以上に、憎んでいる相手がいるの。 すべての元凶。 あなたが言ったのよ? 何でもできると。 私のために、してくれるって。 ハハッ、男がはじめて声をあげて笑う。 無邪気にきらめく瞳。 恐怖を感じる。 相手を怖いと思ったのは、それが最初で最後だった。 「じゃあ不倫相手の女性のほうだ」
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