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りちりと、導火線にも似たその焦燥感。午後の1時をいくらか過ぎた頃だろうか。校内を蠢く人の波もピーク時よりは落ち着いた雰囲気がする。いくら周りが騒がしくても、このまっ暗い水槽の中だけはいつまでもいつまでも孤独であり静謐であるのだけど。聖地、ではないむしろ、心霊スポット、のような。
「後夜祭、ゆりあはでる?」
「俺に聞くなよな」
「うん、でも」
ゆりあのこと一番見ていてくれたのは君でしょ。姿は見えねども視線は感じる。少女のまっすぐで透明な眼差し、誰を断罪するわけでもかばうわけでもない真夏の幻の陽炎。ゆりあ、と声に出してその名を呼んでみると蒸し暑さとはかけ離れた、この世のどこか遠い、いやきっとこの世ではないこの世にはない楽園のような情景が見える。白い花と白い蝶。晴れ渡った空、透き通る太陽は人を焼き尽くすことなく、光の恵みをまんべんなくすべての命に分け与えるのだろう。
「俺は出ないよ後夜祭」
「じゃあ私もやめとくよ」
暑いしね。そう言って彼女はかすかに笑ったのだろう。鈴が軋むような、どこか耳障りな音。
「でも俺は後夜祭好きだよ」
キャンプファイヤーがあるから。ね。会議室の隅に隠しておいた、段ボールの
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