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それから僕たちは、少しの時間だけ、お茶をした。
今世の僕の名前が谷田信知だということ。今世の彼女の名前が三秋みちるだということ。
僕も彼女も、何度も自殺を繰り返しているということ。
彼女はもう、二度とこんな人生を、繰り返したくないということ。
僕も彼女も、相手に心を開く瞬間が、一番苦手だった。不器用すぎて、僕は少し笑った。
彼女もそれに気付いたのか
「こんなことで笑う人なんて、初めて」
と言って笑った。
僕たちは帰り際、メアドだけ交換して、その日は別れた。
僕たちは大して、お互いを求めなかった。でもなにか相談事があるときは、お互い顔を合わせて、不器用に笑うことが、日課になっていた。
そして時々、僕たちは議論をする。
例えば、生きたいのにもうすぐ死んでしまう人の気持ちを。例えば、目が見えない人に、空の青さを伝えるのには、どうすればいいのかを。
結局結論は出せなかった。当たり前だ。それだけ僕たちの人生は、幸せだったんだって知らしめていた。
僕は大学を卒業して、会社に就職をした。それが当たり前の人生だと思った。
彼女は僕が住んでいるアパートで家事をする。それが奥さんとしての、当たり前だと思った。
でも僕たちは決して、子供を作らなかった。
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