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「あの土砂降りの日から2年、言われて驚いたよ。そんなに長い間、君を待たせていたなんて気が付かなかった。
いつ終わるかわからない苦しみや、偽物の人生を送り続けてきたから、わたしは日を数えなくなった。めぐる季節を無視したんだ。
わたしにとって季節は「過ごしやすい」「その逆」でしかなくなって随分たつよ」
季節のものをこれから食べさせてあげよう。今日の白和えには柿がはいっている。ハシリだから旬ではないけれど、秋を感じさせるから。
「2ケ月前の7月で31歳になった。わたしが道を踏み外して10年だね。
そのうちの8年はひとりぼっち。君がいてくれた2年。
最近は宏之と一緒にいる自分しか浮かんでこない。だから逃げ出そうと思った」
おもわず握った指に力がこもる。やっぱりそうだったんだ。
優しくしてくれた、体を繋げた、抱き合って、たくさんのキスをした。でも必死になって心を閉ざす。バラバラになりそうになって悲鳴をあげて縛る。
「そうだろうなって、気が付いていましたよ」
「やっぱり君はわたしを驚かせるね。そんな人間の傍にいて寂しくなかったの?」
「考え方を変えました。傍に居続ければ逃げられないぞって。
朝と夜のメールをみたら、思いとどまってくれるかもしれない。
傍にいますと言い続けば、置いていくのは可哀想、そう思ってくれるかもしれない。
だから、大丈夫でした」
ブルと震えると上掛けをしっかり体に巻き付けている。起きたままで何も着ていない、当たり前だ。
「寒いですよね。あの毛布の上にいきましょう」
毛布をベットの傍に移動させて座るように促す。着ている物をすべて脱いで毛布の上に座った。
「ここに来てください、碧さん」
足の間にしっかり抱え込んで背中越しに腕を回す。上掛けをぐるぐる巻いてできあがり。
「雪山で遭難したら、裸になって寝袋の中で抱き合うらしいですよ。暖かいでしょ?」
「うん。背中が温まるとほっとする」
碧さんは力を抜いて身体を預けてくれた。だから大丈夫、逃げ出すわけではない。違う言葉を聞かせてくれるはず。
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