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「君の横は居心地がいいし安心できる。そして怖い。 もしも、居なくなったら?また一人になったら? そうなったら、たぶんわたしは二度と戻れないところに引っ込むだろう。今なら離れても立ち直れるかもしれない、そう考える。 それなのに君が恋しくなる、顔を見ると嬉しい。一緒にいられて幸せだと思ってしまうから、また怖くなる。 今ならまだ「仕事」に戻れるだろう。あそこにいけば、わたしを欲しがる男達が列をなしているから、少なくとも必要とされる。 それを繰り返して、八方ふさがりになると、君に八つ当たりだよ。我ながら、人でなしだと思う。それなのに宏之は何度も言うんだ。 「愛しています」 「傍にいます」 「何をされても何処にもいきません」 だから信じてみよう、きっと大丈夫だ。でもその一瞬先に、恐怖のせいで伸ばした腕をひっこめる」 「碧さんを苦しめたみたいですね、ごめんなさい」  抱き締める腕に力をこめて、うなじにそっと口づける。その腕に同じようにキスを落とされる。二人はこんなに寄り添っているのにね、碧さん。 「苦しみ……甘い苦しみは少しの勇気を生み出すんだよ、知っているかい?」 「勇気?」 「少しずづ、逃げ出さないようにするには、どうしたらいいのかと考え始めるようになった。 尻込みばかりしていたら、本当に君が諦めていなくなってしまうかもしれない。 それを自分がしようとしている事実だよ。バカみたいな話じゃないか、自分を不幸にするなんて」 「それで店に来てくれたんですね」 「それだけじゃないんだ。店にいかないと渋るわたしに君は色々言って、うんといわせようとしたね?」 「必死でしたから」 「『俺達は恋人じゃない』そう言った」 「そうでしたっけ?ああ、俺の片想いですって」 「恋人じゃない。その言葉に殴られたようなショックを受けた。そしてね、ショックを受けた自分に驚いたよ。それはつまり、それを望んでいるということだから」  ここで泣てはいけない、まだダメだ。必死に堪えた。
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