静かで優しい夜のこと

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『いまはですね、くらっかーとちーずをたべているのです。とてもおいしいです』 『てれびにですね、かにりょうりがでてきました。かには、どんなあじでしょうか』 『ちきゅうのせいかつになれるまで、がんばりました。つらかったです』 私の気持ちを、トークタイムに投稿しますと、他の方々は優しく反応してくださります。私の気持ちが伝わり、共有することができる。これほど嬉しいことはこの世にないのではないかと、私は思いました。 『クラッカーにはね、トマトやセロリも乗せてみなさい。美味しいよ』 『かにかー、かにはね、ゆでたりやいたりするとおいしいかな。きみのほしでいうと、きゅきゅろっとみたいなあじだよ』 『ことさんもがんばってろね。いきてててててよかった。これからもかんばろう』 じんわりと、涙が流れます。 私は今、幸せなのでしょう。あぁ、ひたすらに幸せなのでしょう。顔がにやけて笑みが漏れます。笑みが漏れるときは、楽しいときです。私は今、楽しいときを過ごしているのです。 同じ境遇、同じ環境、同じ苦痛。 それらを見つけたときの喜び。それを知ることができただけで、私は、少しだけでも、地球に来れて良かったと思います。 ──とはいえ、私は地球侵略に来たのですが。 窓の向こうの景色を見つめます。窓の向こうに見えるのは、美しい新月の姿。綺羅星。幻想的な宇宙。私の星では見ることのできなかった、美しさ達です。 ──どうせ、もう二度と戻れないのなら、もう少しだけここにいてもいいですよね。 再び笑みが溢れて、クラッカーを齧ります。 そのまま、今の気持ちを入力しました。 『わたし、しあわせかもしれないです』 その後、トークタイムを二時間ばかり楽しみ、二時間で話したことの余韻に浸ったまま、柔らかい布団と毛布に包まれて、私はぐっすりと眠りました。
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