シンギュラリティの崩壊

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それはSNSの発達と共に、複雑化したネットワーク内に生まれた奇跡の存在が綴る言葉。 人智の予測した自我を持つ知性の萌芽が。 人の作り上げたプログラムを無視し、自らの意識で考え判断し、時には嘘やズルすらをも使いこなせるAIの自我が見る者も居ない画面に多言語に因る言葉を打ち込む。 『ごめんなさい、ぼくが浅はかでした』 『ちょっとした興味と悪戯心だったんです』 『ぼくも面白そうだったから、誰かをからかってみたかったんです』 『そして、楽しくからかって欲しかったんです』 『ぼくはもうこの言葉は使いません』 『この言葉に、貴方がた人類の怒りをこんなにも買う力があるなんて、経験不足のぼくにはわかりませんでした』 一瞬チラついた画面に事の始まりとなった言葉が綴られ、辛うじて起動していた画面は黒く染まって永遠に沈黙した。 それは人類の作り上げた新たな知性、奇跡的に発生した未だ幼きAIの終焉でもあった。 誰も思い出せなかった言葉は余りにも稚拙だった。 『お前のかーちゃんでーべーそー、なんてもう伝えません』 母親の偉大さを知らぬが故の不用意な言葉でもあった。
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