1983年 新宿ラブホテル殺人事件

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1983年 新宿ラブホテル殺人事件

 その死体は一見病死に見えた。  可憐な少女だった。  新宿駅からほど近いラブホテルの一室だ。 「戸倉、ちゃんと見ろよ?」  主任からキツい口調で言われた。  青黒く変色しており、瞼の裏には溢血点が見られた。失禁が見られる。 「毛細血管が破れ出血している」  顔は膨らみ充血している。 「チアノーゼも見られるようだな?」  さらに死体は舌を噛んでいる。 「こりゃあ絞殺だ」  2体目の死体は紳士だった。  目のくぼみにドロッとしたものが見られる。 「浮腫が見られるな?」  顔は脂ぎり皮膚の弱い部分に火傷みたいな痕があった。失禁は見られない。 「こっちのガイシャは睡眠薬で死んでいる」  1983年7月、蝉がけたたましく鳴いている。  戸倉はタカラ島のアイスバーにはまっていた。  あたりを引くと現金が手に入る。最大500円が当たる。海賊船のアニメが描かれたパッケージだ。  今日は50円が当たった。  去年はアイス自販機の登場により雪印のアイスクリームがバカ売れした。 「少女を殺して睡眠薬で自殺、『エッチな関係を奥さんに迫る』とか脅迫されて首を絞めちゃったんですかね?」  戸倉の軽薄な推理に主任は苦笑した。  紳士の正体が明らかになった。  群龍医大の中堅医、加護直人だ。46歳、美味いポストにありつける頃合いだ。  加護はヤブ医者として有名だった。イヤ、群龍大自体が凶暴だった。並列麻酔(1人の麻酔科医が同時に複数の手術を担当する)に対応していないし?  加護は心臓血管外科医だ。消火器外科や脳神経外科と並ぶ花形ポストだ。同期の由利原ドクターは形成外科だ。低層ポストであることを加護たちからバカにされていた。  戸倉も医学部を卒業している。2月半ばに実施される医師国家試験にも合格している。しかし、戸倉は医師の道を捨て、刑事になった。  友人の鞍馬は外務省の医務官だ。海外の大使館や領事館などに赴き、外交官とその家族の診察に当たる。  この頃の戸倉はまだ男を愛する性癖はなかった。  鞍馬の妹である愛実を愛していた。  捜査は難航を極めた。  スカラ座の近くで愛実とバッタリ会った。  車に愛実を乗せた。 「久しぶりね?」  デパートの立体駐車場に車を停めた。  愛実はドレスを着ていたが、その下は全裸だった。戸倉はゆっくりと愛実のナカに入り込み、激しい息づかいで体を揺さぶった。
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