あれは夢か現実か

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「いや、なんでもない。机の下にペンを落としただけだ」  忠信はジタバタと机の下でステッキと格闘し、ふとしたはずみで20センチのサイズに戻ってホッとする。 「…………」  しばらく考えを整理したのち、立ち上がり、 「ちょっと今日は先に帰ります」  そう周囲に宣言し、山積みの仕事をうっちゃらかしてバタバタと帰り支度を始める。  社内の全員がまだ仕事をしているなか、ステッキを入れたカバンを大事そうに抱えて事務所を辞した。  向かったのは屋上だった。エレベーターで最上階まで上がり、そこから階段を使って屋上へ。  エアコンの室外機が所狭しと無秩序に置かれた雑居ビルの屋上には誰もいない。夕暮れの街が見渡せたが、この屋上よりも背の高いビルが書き割りの如く遠くの視界をふさいでいた。
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