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大昔なら、妖怪でも現れるところだが、現代ではそんな物の怪よりも、通り魔か路上強盗のほうが恐れられる。
早く帰ろう──そう思って忠信は歩みを速める。すると、次の瞬間、なにかが目の前に飛び出してきた。それは先端が鋭く尖った三又の銛で、勢いでアスファルトに深く突き刺さっていた。
「…………」
疲れのせいだろうか、とそれが現実には思えない忠信……。カバンを手に下げたまましばらく見つめていると幻が消えて──しまわなかった。しかたなく見なかったことにしてスルーしようとすると、その銛に飛びつく影があった。
風のように現れた大柄な影は、太い腕でつきたった銛を引き抜くと、呆気にとられてたたずむ忠信の存在など気にとめる様子もなく、なにかに向かって身構える。真っ黒い姿は闇と同化し、子細まではわからない。ただ、先端がトランプのスペードの形をした長い尻尾が揺れるのが、非現実的な主張をしていた。
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