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「聞こえてんの?」
いやまあきこえてるんすけどね、と言い返しそうになった。なんとかその言葉を飲み込んだ僕は、つっかえながら返した。
「聞こえてます。でもその日は本当に無理なんです。」
「お前の用事なんか聞いてねぇの」
カウンターに先輩の手が当たった反動でがしゃん、とビールジョッキが音を立てた。
「音楽活動?とかなんだか知らないけどさ、学校の活動優先すんのは当然じゃねぇのか?」
このパワハラ野郎とバイト先も高校も一緒であることを実感して、身震いした。
「1年間の打ち上げで先輩の苦労を労うっていう考えはないのかなー」
待て待て。お前ら練習にもろくに来なかったくせによく言えんな。心の中で毒づいてもどうにもならない。
先輩は僕の顔を覗き込んでニヤッと笑った。
僕は歯を食いしばった。
「その日は...オーディションの最終審査で...僕もう高2なんで」
拳を握り締めながら言葉を絞り出した。認められないってほんとに辛い。
「最後のチャンスなんです」
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