1章

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今日も一日なんとか終わったと安堵した時の事、いつものように現場総監督(西嶋)の一言。 「おい!茨木、山寺さん(得意先)の所へ連れて行ってくれるか?」 またか… 西嶋とは、工事現場を仕切る本社から来ている総監督で現場全体の安全を管理する役目にあり、その下に私達、各建設会社が存在し、寺の修復工事を進める形になる。 寺(得意先)→本社(元請け会社)→建設会社(私が所属)という形になる。 山寺さんは、寺全体を仕切っている世話役の様な存在だった。 いつも当たり前のように私を足代わりにする、早く帰り汗を流しゆっくりと疲れをとりたいのに。 「はい!わかりました。」 得意先に着くと西嶋がいつものように。 「すぐ済むから待っといてくれ!」 だが、いつもの様に待たされる。 やがて出て来た西嶋が「いやーたまらん!引っ張られた!」 たまらんのは私だ… 「お疲れ様でした!」 汗は乾き臭く、風呂に入りたい。 「茨木!いつもの焼鳥屋にレッツゴー!」って言うか?レッツゴーって? 「はい!」 ここは、京都駅の八条口付近、正面よりも下町情緒漂う、美味い店が沢山あって開発も進み、八条口は賑わいを増している。 店内では「茨木、汗臭いな!課長なんやし、ちゃんと風呂に入れよ!」誰のせいや… 「はい、すいません。」 西嶋と別れたのが夜の9時、タクシーを使う余裕も無く歩くはめになる、家に帰るが既に夜中、風呂に入る元気も無く、また明日には駐車した車まで歩き現場に向かう。 睡眠時間は平均4時間、毎日毎日そんな日々が続いていた。 ある時は焼鳥屋の後に「茨木!今日は祇園に行くぞ!」 一般的には華やかな印象で豪華に思えるが私は違った。 ここは祇園の中心部、四条花見小路を上がった所、京都では北に向かう事を”上がる”南には”下がる”また北へは”上(かみ)”、”南へは”下(しも)”と言う。 とあるビルの3階、この店は和風で感じ良くいつも賑わっていた。 いつもの様に西嶋はホステスにストーカーまがいの行為、嫌がるホステス。 いつもの様に私は呆れ顔、帰る頃にはいつものセリフ「おい!茨木!払っといてくれ!」 まるで毎日、おいはぎに合うようだ、勿論、焼鳥屋もタクシーも私の支払い。 そんな日々を過ごしていたある日の昼。 珍しく普段食べない西嶋が「おい!茨木!私の弁当を買って来てくれるか?」 「はい!分かりました!」 「一番安い、のり弁やで!」 なんて、せこい男や…
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