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4【相合傘】
なんで泣くの。
雨の中、傘も差さずに一人涙を流す女の子に向かって掛けるには、少年の言ったそれはあまりにもデリカシーのない言葉だった。
彼は泣く少女を慰めるでもなく、非難するでもなく、傷つけようと思って口にしたわけではなかった。
ただ、純粋に、淡々と疑問をぶつけただけだった。
彼と少女は付き合いが長いわけではなかったけれど、さりとて短いわけでもなかった。
そっけない彼の言葉に含まれるのは、とても優しい彼なりの気遣いなのだと理解できるくらいには。
少女は目に浮かんだ涙をぬぐい、少し後方に立つ彼のほうを振り返る。
なんでかな、と呟いた。
「やっぱり、ショックだったのかもしれない。わたしは、あの人の事が好きだから」
その言葉に、やっぱり聞かなければ良かったとちょっとした後悔と苛立ちを感じた。
口数の少ない少女がここまではっきりと気持ちをさらけ出すとは思わなかった。
どこへ行ったのかも、何を考えているのかも分からない。
あんな男の事なんて考えず、今、目の前にいる自分にただ寄りかかればいいのに。
馬鹿だな、君は。
とは言えないので、ただなんとも言えない目で彼女を見遣れば、彼女は自分で言った言葉にはっと気が付いたのか、顔を赤くして、先程とは打って変わって声色弱く尻すぼみな口調でやっぱり、と繰り返した。
「やっぱりわたし、あの人の事が……好き、なのかな…?」
戸惑いの色を満面に浮かべおろおろと下を向く彼女を見ていると、苛立ちが沈んでいくのを感じた。
細くゆっくりと振る雨が少しずつ彼女の肩を濡らしていく。
ポタ、ポタ、ポタ――
さあね、と彼はため息をついた。
「そんなの、知らない」
「うん……わたしも、わからない」
ただ、もやもやするの。
胸のあたりを押さえる彼女に、今度は何も言わず、彼はただ傘を差しかけた。
「入れば」
「……ありがと……」
俯いた彼女が小さく口元を綻ばせるのがわかった。
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