第1話 いばら姫

5/16
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/254ページ
 恐る恐る目を開けると、渦を巻いた茨が、盾のようになって俺を守ってくれていた。  俺と大和撫子の目が一瞬だけ合う。  その表情すらよくわからない間に、彼女の体は傾き、後ろへと倒れこんだ。  すぐに彼女は体勢を整える。だが隙を狙った金髪が体に絡みつき、その自由を奪ってしまう。  ――くそっ、俺はいいように使われたってことか。  金髪は、そのまま彼女をぎりぎりと締め上げ始めた。苦しそうに声を漏らす主と共に、従う茨もコントロールを失ったかのように滅茶苦茶に動き回る。時折金髪を攻撃しようとするものもあったが、全く効いてないようだった。 「しっかりしろ!」  今度こそ俺も何かしなきゃと思ったのに、その茨に邪魔されて、近づくことすら出来ない。さっきは俺を守ってくれたっていうのに、今は棘であちこち傷だらけだ。  俺が追ってこなきゃ、あの子はこんな目に合わなくてすんだのかと思うと、悔やんでも悔やみきれなかった。  あの金髪がダメなら、ギャルのほうを何とかできれば――。  そう思って、ポケットに入ってたスマホやら財布やらを投げてみるが、そんなのが当たるはずもなく、空しく近くの茨に紛れてしまう。  もどかしい時間が、どのくらい続いたんだろうか。暴れまわる茨が、少しずつ静かになってきた。     
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!