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お酒の勢いで私は言うと、皆木先輩は真顔でこちらを見つめた。私はこのひとを抱きたい。あらぬ声を上げさせ、私の下で許しを乞う皆木先輩が見たかった。
「本気?」
そうであって欲しくない、と訴えかけるような皆木先輩の声が私の耳に響いた。
「本気です」
私は皆木先輩に目を合わせず、身体を強張らせて言った。
「そうか、本気かあ」
皆木先輩はそう漏らすと、グラスを取って一気に飲み干した。
「据え膳さまの出来上がり」
私は皆木先輩がそう言ってガラスを置いた。私は驚いて目を見開いて空のグラスを見つめた。
「先輩」
「ねえ伊井野、そんなに恋愛って大事?」
私は恐る恐る皆木先輩の方を見つめた。皆木先輩は青い顔で、うっすらと微笑んでいた。
「私も伊井野のこと、好きよ」
溜め息に近い吐息で皆木先輩は言う。
「本当に私を抱きたいと思うなら、抱けばいい。でも対になることがそんなに尊いこと? 友情は恋愛よりも下なの? 恋愛は至上の関係なの? 私は友だちとしての伊井野を失うの?」
私は矢継に質問をされ、言葉を失った。私は浅はかなことをしてしまったのかもしれないと後悔した。
「伊井野が合っているという答えでいいよ。私も伊井野のこと好きだし」
「先輩は残酷です」
「選ぶのは、伊井野だよ」
お水をちょうだい、と先輩は声を千夏にかけた。
「大丈夫? 皆木さん」
千夏が心配して声をかけた。
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