レディキラー

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 皆木先輩はそう言って微笑んだ。千夏がハイボールとビールを私たちの前にそれぞれ置くと、皆木先輩はグラスを持って、乾杯、お疲れさまと私のグラスに合わせた。今日のビールはやけに苦いな、と私は感じた。  ル・ベゼ・ド・リスでお酒を飲む皆木先輩は、いつも以上に饒舌だった。皆木先輩の恋人はシステム・エンジニアでル・ベゼ・ド・リスでたまたま隣に座ったときに意気投合して、その日に一緒にベッドに入ったらしい。週末は一緒に飲み歩いたり、映画に行くらしい。お名前は七海さんというらしい。名前を聞くと生々しく皆木先輩の恋人像が浮かんだ。赤いネイルの七海さんの指は先輩の肌を滑るところを想像すると、私は内心から湧き上がってくる想いがあった。嫉妬と欲望が混ざり合ったどす黒い感情だった。お酒の力もあってか、その感情は抑えがたいものだった。このひとに触れたい。私だけを感じて、私だけを見て欲しい。皆木先輩がお手洗いに離席すると私はあるカクテルを頼んだ。 「先輩、お酒を頼んでおきました」 「ありがとう」  皆木先輩はそう言って座ると、そのお酒が何を意味するのか悟った。ロングアイランド・アイスティ。私が入社したばかりに皆木先輩が教えてくれたカクテルだ。 「これってどういう意味かな?」  お酒で上気した頬に皆木先輩は首を傾げた。 「そのままの意味です」     
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