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レディキラー
「あ、この店にはロングアイランド・アイスティがあるじゃん」
皆木先輩は騒がしい居酒屋で飲み物のメニューを広げてそう言った。
「なんですか? ロングアイランド・アイスティって」
私がそう問うと皆木先輩は少し得意げに鼻を突きだした。
「ロングアイランド・アイスティっていうのは見た目はただのアイスティなんだけど、実は滅茶苦茶に強いカクテルなのよ。だから伊井野も気をつけなよ、ロングアイランド・アイスティを飲むと確実にお持ち帰りされちゃうから」
喉を鳴らして笑う皆木先輩は、就業中よりも艶やかに私の瞳に映った。
皆木先輩は私の三つ上の先輩で、営業として毎月トップの成績を収めている。私は仕事の流れと人心把握術のノウハウを学ぶために皆木先輩の下に就いている。皆木先輩は会社だと大雑把でがさつだけれども、営業に出ると変わる。大雑把さは寛容さに、がさつはおおらかさになる。女性の営業ということもあってか、訪問先で軽視されることも多いが、皆木先輩は神経が太いのか、大抵は笑って対応する。皆木先輩の営業用のその笑みは確かに美しい。
「伊井野、あんたは笑顔が足りないのよ。その仏頂面どうにかしなさい」
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