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「いやいや、悩みを笑ったわけじゃなくてですね。ニキさんってそんなに思考回路が飛んだひとでしたっけ?」
「ニキはときどき何を考えているか、わからないときはあったよ。あとやっぱり早くにお母さんを亡くしたせいかもね」
「いつかも酔っぱらった結子さんを介抱しているニキさん、すごく慈愛に溢れていましたよ」
慈しむ愛ですよと千夏ちゃんが言うと、確かにそんなときもあったかなと思った。
「精子バンクを利用するの? ニキ・プランは」
マスターはお待たせしました、と言ってドライ・マティーニを私の方に差し出した。私はマティーニに添えられたオリーブを口に運ぶ。
「ニキ・プランはゲイの友だちから? 精子もらうんだって」
「やっぱり精子をいれるコップはキンキンに冷やしておいた方がいいんですかね?」
「いや、やっぱり人肌でしょう。冷えたら精子が死んじゃうから」
千夏ちゃんとマスターはおよそ女性限定のバーに似つかわしくない言葉を連呼して、私は家に帰るのにもル・ベゼ・ド・リスにいるのにも居た堪れなくなった。
と思いつつも、マティーニを三杯、飲んでしたたかに酔った私を待っていたのは、やはりニキだった。
「遅い」
「ごめん」
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