50人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
一週間後の日曜日、私は有給をもらって、精子提供者と会うことになった。別に精子提供者と仲良くする必要はないのでは? と私は思った。男なんて出すもの出したら、それで終わりなのではと勝手に思っていた。
「立木くんはいい子だよ」
「ふーん。『いい子』は『どうでもいい子』」
「毒が舌に回るってよく言ったものよね」
「真理を述べたまでよ」
近所のカフェで少しだけよそ行きの服を着て、アイスティをすする。強い日差しで肌ではもう夏を感じている。まだ暑くなるには早いと思いつつ、私は窓から青空を見上げた。
「立木くん、こっち」
「ニキさんたち早いですね。僕は十分前に着く予定だったのに」
短く切られた髪に精悍な面魂。清潔なポロシャツに同じくジーンズ。私は値踏みするように立木を見た。
「結子、こちら立木健文さん。で、私の伴侶の飯島結子さん」
「初めまして、立木です」
「いつもニキがお世話になっています」
私は差し出された手を迷いなく握り、固い握手をした。第一印象は悪くもなく良くもなく。ああ、男だなと思っただけだった。差し障りのない天候の話から私たちは会話を始めた。そしてニキと私の馴れ初めを立木は聞きたがった。
「馴れ初めと言っても」
私はもったいぶって言葉を繋げようとはしなかった。
「私は結子のお客さんだったの。はじめは」
「そうだったね」
最初のコメントを投稿しよう!